高松高等裁判所 平成8年(ネ)160号 判決 1999年2月16日
控訴人(附帯被控訴人)
藤田恵美子
右訴訟代理人弁護士
江口保夫
同
江口美葆子
同
豊吉彬
同
山下泰史
右訴訟復代理人弁護士
中村威彦
被控訴人(附帯控訴人)
武田綾惠
右訴訟代理人弁護士
高橋正明
主文
一 本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人は、被控訴人に対し、金七〇二万五八三七円及び内金二五〇万七六五二円に対する平成元年七月一一日から、内金四五一万八一八五円に対する平成二年五月一九日から、いずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人のその余の請求を棄却する。
二 本件附帯控訴を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを八分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 本件控訴
1 控訴人
(一) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
(二) 被控訴人の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴人費用は控訴人の負担とする。
二 本件附帯控訴
1 被控訴人
原判決主文一項を次のとおり変更する。
控訴人は、被控訴人に対し、金三二七六万〇九八九円及び内金四八七万九三七二円に対する平成元年七月一一日から、内金二七八八万一六一七円に対する平成二年五月一九日から、いずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(当審で請求の変更)。
2 控訴人
(一) 本件附帯控訴を棄却する。
(二) 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
一 被控訴人の請求
被控訴人は、控訴人に対し、自賠法三条、民法七〇九条に基づき、後示二の本件交通事故により被控訴人に生じた損害の内金三二七六万〇九八九円の賠償と、このうち後遺障害関係を除く損害についての賠償金四八七万九三七二円については本件交通事故の日である平成元年七月一一日から、後遺障害関係の損害についての賠償金二七八八万一六一七円については症状固定日の翌日である平成二年五月一九日から、それぞれ支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を請求する事案である。
二 本件交通事故
1 本件交通事故の発生(争いがない。)
(一) 日時 平成元年七月一一日午後五時頃
(二) 場所 愛知県大府市吉田町平地<番地略>の一先道路上
(三) 加害車両 普通乗用自動車(<車両番号略>)
右車両保有者兼運転者 控訴人
被害車両 自転車
右運転者 被控訴人
2 本件交通事故の態様(甲一五の一ないし四、六)
(一) 本件交通事故当時、加害車両は、交差点を左折し、左折後直進しようとしていた。その際、被控訴人は、道路前方左側端を加害車両と同方向に進行していた。被控訴人は、右手に傘を持ち、左手でハンドルを握り、自転車を走行していた。
(二) 加害車両は、被控訴人の自転車を追い抜くに際し、自車左側につき、自転車との間に十分な間隔を保たないで追い抜こうとした。
他方、被控訴人も、右手に傘を差して自転車を走行しつつ、左折したため、ハンドル操作があまく、ややふくらんで進行することになった。
(三) このため、加害車両は、被害車両である被控訴人の自転車に接触し、その結果被控訴人はバランスを失い転倒した。
第三 争点
一 損害
1 被控訴人
(一) 治療費(被控訴人出損分)
二万四〇六〇円
(二) 入院雑費 一一万四四〇〇円
1,300×88=114,000
(三) 付添看護費
一一万〇〇〇〇円
5,000×22=110,000
(四) 通院等費用
四万二三三〇円
(五) 休業損害
一八七万二〇〇〇円
(1) 本件交通事故当時の被控訴人の年齢 四六歳
(2) 女子四六歳の年齢平均給与額
月額一八万二五〇〇円
(3) 本件交通事故日から症状固定日までの通算期間三一二日
182,500×12/365×312=1,872,000
「/」は、割算を示す記号として用いる(以下同じ)。
(六) 後遺症による逸失利益
三三二九万九二八九円
被控訴人は、本件交通事故により、①右肩関節外転制限、②右肩痛、③右手の麻痺による使用不能、④唇のしびれによる言語機能の障害、⑤右顔面のけいれん、⑥歩行困難の各障害を負った。右後遺障害は、自賠法施行令別表の後遺障害等級に従えば、二級に該当する。
(1) 年収 二四四万五六〇〇円(月二〇万三八〇〇円)
(2) 労働能力喪失割合
一〇〇パーセント
(3) 喪失期間 二〇年
2,445,600×1×13.616=33,299,289
(七) 傷害慰藉料
二四〇万〇〇〇〇円
(八) 後遺障害慰藉料
一八〇〇万〇〇〇〇円
(九) 弁護士費用
二八〇万〇〇〇〇円
当審で請求額を増額
(一〇) 合計
五八六六万二〇七九円
2 控訴人
(一) 被控訴人の主張を争う。
(二) 逸失利益は、症状固定時の平成二年度の愛媛県の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の平均年収(二二〇万九九〇〇円)をもとにして算定すべきである。
労働能力喪失期間は、相当な期間に短縮するか、順次喪失率を逓減させるべきである。
二 過失相殺
1 控訴人
当事者双方の過失割合は、被控訴人が四割、控訴人が六割とみるのが相当である。
2 被控訴人
本件交通事故に関する被控訴人の過失はない。
第四 当裁判所の判断
一 被控訴人の罹患した疾患、症状の検討
1 証拠(甲三ないし一四、甲一五の五、甲一七、乙一ないし五、乙一三ないし一五)によると、本件交通事故後の被控訴人の医療機関受診の状況について、次のとおり認めることができる。
(一) 黒岩病院(愛知県大府市所在)
(1) 平成元年七月一一日から同年八月一日まで(二二日)入院。
(2) 平成元年八月二日から同年九月二〇日まで(実治療日数三七日)通院。
(3) 右病院は、平成元年七月一三日時点で、右頚肩胸部挫傷、腰部挫傷で二週間の安静加療を要する旨の診断をした。
(二) 中央病院(愛知県東海市所在)
(1) 平成元年九月二一日から同年一二月二五日まで(実治療日数四三日)通院。
(2) 右病院は、右肩挫傷、腰部挫傷と診断した。
(三) 十全総合病院(愛媛県新居浜市所在)
(1) 平成元年一二月二九日から平成二年五月一八日まで(入院六六日、通院の実治療日数二五日)入通院。
(2) 右病院は、右上肢反射性交感神経性萎縮症、右肩打撲症(全身打撲症)、頚部捻挫、右上肢不全麻痺と診断した。
(3) 右病院は、平成二年五月一八日症状固定と診断した。
(4) なお、被控訴人は、症状固定と診断された後も、平成二年七月九日まで右病院に通院した。
(四) 吉井整形外科
(1) 平成二年九月一四日から平成四年二月一八日まで通院
(2) 右病院は、頚椎、肩関節周囲炎等と診断した。
(五) 愛媛労災病院
(1) 平成四年一月七日に通院した後、平成五年八月三一日以降通院。
(2) 右病院は、右上肢反射性交感神経性萎縮症等と診断した。
2 被控訴人の本件交通事故後の症状
(一) 証拠(乙二三、乙二八、証人大谷清、大谷清の鑑定〔以下「大谷鑑定」という〕)によると、被控訴人の本件交通事故後の症状は、右肩関節痛と右肩関節運動制限であり、これは右肩関節周囲炎に基づくものと認めるのが相当である。そして、右証拠によると、右症状による障害は、右肩関節周囲炎の典型的な症状として、通常一般的に認められる程度のものにすぎないものと認めるのが相当である。
また、被控訴人が、本件交通事故に基づき、右以外の疾患に罹患していることを認めるに足る的確な証拠がない。
(二)(1) もっとも、この点について、被控訴人は、本件交通事故の結果、右上肢反射性交感神経性萎縮症(以下「RSD」という)に罹患した旨主張する。
(2) また、被控訴人は、その症状について、次のとおり主張する。
イ 右肩関節可動域制限。
ロ 右肩関節痛。
ハ 右手の麻痺による使用不能。
ニ 唇のしびれによる言語機能の障害
ホ 右顔面のけいれん
ヘ 歩行困難
なお、被控訴人は、右上肢については、その自動、他動の検査すら不可能なほど痛みが著しい等、極めて重篤な状況である旨主張する。
(3)そこで、次に被控訴人の右主張について検討する。
(三) 右上肢反射性交感神経性萎縮症(以下「RSD」という)について
(1) 十全総合病院及び愛媛労災病院は、被控訴人がRSDに罹患している旨の診断をしている上、中垣博之鑑定人もその旨の鑑定(以下「中垣鑑定」という)をしている。
しかし、証拠(乙二四、乙二八、証人竹内孝仁、大谷鑑定、弓削孟文の鑑定〔以下「弓削鑑定」という〕)によると次のとおりであるから、被控訴人がRSDに罹患しているとする右証拠を採用することができない。
イ 被控訴人は、RSDについて一般的に認められている診断基準に照らし、RSDに罹患しているとはいえない。
もっとも、被控訴人の症状には、右診断基準に属する各検査項目の一部について、陽性ないし疑陽性のものがある。しかし、それらはすべて疼痛を中心とした自覚的症状にすぎない(発汗作用の変化は、病的なものとまではいえず、強いていえば疑陽性という程度にすぎない)。右各検査項目のうち、他覚的ないし客観的検査項目はいずれも陽性ではない。
ロ RSDには病期があり、病期に応じて症状が特徴的な変化をしつつ重症化していくという経過を辿るが、被控訴人にはこのような症状の変遷が認められない。
ハ 被控訴人は、一貫して筋萎縮、骨萎縮の症状を欠いているが、これらの症状を欠く場合にRSDと診断することはできない。
(2) そうすると、被控訴人の症状をRSDに基づくものとみることができない。
(四) 被控訴人の症状について
(1) 証拠(乙三ないし五、乙四七、乙四八、中垣鑑定、大谷鑑定)によると、被控訴人の右上肢の可動域の総合的な検査は、四回(①平成二年五月、②平成四年八月、③平成六年七月、④平成七年一〇月)行われており、被控訴人は、このうち②、③について自動、他動の検査を拒否し、④について他動の検査を拒否している。そして、いずれの場合も、被控訴人は、拒否した理由として、痛みが著しいことを訴えている。
しかし、証拠(甲一七、乙七)及び弁論の全趣旨によると、被控訴人は、前示のとおり吉井整形外科に平成四年二月頃まで約二年間にわたり通院しているが、右病院における診断は、右肩、右上肢痛、右肩外転制限、右肩関節周囲炎というにすぎない。また、証拠(乙一三)によると、被控訴人は、前示のとおり愛媛労災病院で平成四年一月七日に一日だけ診察を受けているが、その際、右不全片マヒ、知覚・痛覚鈍麻の症状はみられたものの、両側頚動脈の拍動良好で、CT上も病変はなく、加療の要なしとされている。そうすると、これらと時期的にさほどの隔たりがない平成四年八月に、②のように痛みが著しくて測定不能というのは不自然である。
また、証拠(乙一三ないし一五)によると、被控訴人は、平成六年六月から同年八月にかけて、右上肢の挙動自体は可能であったものと推認できる。そうすると、右期間中である平成六年七月に、③のように痛みが著しくて測定不能というのは不自然である。
(2) 証拠(乙六の一ないし七、乙七、乙八、乙一二)によると、被控訴人は、平成五年八月二六日、同年一〇月一八日に、自転車に乗って走行していたことが認められる。このうち、八月二六日及び一〇月一八日の際には、被控訴人が左手のみならず、右手を使用して自転車を走行していることが明らかである。
また、被控訴人自身も、平成二、三年頃から自転車に乗って走行している旨供述している(原審第二回被控訴人)。
以上に、自転車の片手走行は、とくに走行開始及び停止時や、道路角を回る際にかなりの困難が伴うことを考慮すると、被控訴人は、左手のみならず、右手も使用して自転車走行をしているものと認められる。そうすると、被控訴人の右上肢に同人が主張するような症状があるとは考えにくい。
(3) 証拠(乙四七、乙四八、証人大谷清、中垣鑑定、大谷鑑定)によると、被控訴人の右上肢に、筋萎縮、骨萎縮の症状は存在しない。そうであるから、被控訴人の訴える知覚障害等は、神経学的に理解することができないし、また器質的疾患があるとはいえない。
むしろ、証拠(証人大谷清、証人竹内孝仁、乙二八、大谷鑑定)によれば、被控訴人が受診した各医療機関の診療録における、右肩から腕に及ぶ疼痛、発汗、時としてみられるチアノーゼ、感覚障害の記載は、肩関節周囲炎によって生じた症状として説明することができる。
そして、証拠(乙四八、大谷鑑定)によると、被控訴人には、右大結節部圧痛がある上、レントゲン写真で右大結節部に石灰化像と骨硬化像がみられるから、被控訴人の右肩関節痛、右肩関節運動制限は、肩関節周囲炎に基づく症状と認めることができる。
なお、被控訴人は、唇や顔面にも障害がある旨主張する。しかし、被控訴人が受診した各医療機関の診療録に、唇や顔面自体の疾患があることを認めるに足る記載はない。むしろ、証拠(乙二八)によれば、疼痛の主体が肩関節であるとしても、疼痛の程度如何によっては、腕全体に放散した痛みを感ずることがあるから、唇や顔面の感覚に障害があると感ずることもないとはいえない。これは、証拠(甲一三)によれば、被控訴人の右上肢症状憎悪時に、右眼痛、右顔面の異常感の症状があるとしていることからも明らかであるといえる。
(五)(1) 被控訴人は、歩行困難の障害がある旨を主張する。
(2) しかし、証拠(乙二三、乙四八、証人大谷清、大谷鑑定)によると、次のとおり認められる。
イ 被控訴人の両下肢に筋萎縮はなく、下肢関節に拘縮もない。また、下肢反射は両側とも正常であり、病的反射はない。被控訴人は、下肢痛を訴え、右足を引きずるような歩行をするものの、歩行速度は普通である。
ロ また、被控訴人が受診した病院の診療録に、被控訴人が本件交通事故により下肢に損傷を受けたとする傷病名があるとは認められない。
ハ もっとも、十全病院及び愛媛労災病院の診療録には、下肢に関する症状の記載がある。しかし、被控訴人の下肢反射は正常であり、筋萎縮、骨萎縮はなく、下肢麻痺の訴えを神経学的に理解することは不可能であり、被控訴人には器質的疾患による下肢麻痺があるとはいえない。
(3) そうすると、被控訴人が、本件交通事故により歩行困難の障害を被ったと言うことはできない。
(六) 以上のとおりであり、被控訴人の本件交通事故後の症状は、右肩関節痛、右肩関節運動制限に限られ、これらは、右肩関節周囲炎に基づくものと認めるのが相当である。そして、右症状による障害は、右肩関節周囲炎の典型的な症状として、通常一般的に認められる程度のものにすぎないものと認めるのが相当である。
(七) そうであるから、被控訴人の症状固定時の右障害の程度は、自賠法施行令別表の後遺障害等級一二級六号の「一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」に該当するものというべきである。
二 本件交通事故と被控訴人の右肩関節周囲炎との相当因果関係
1 証拠(甲一五の一ないし六、被控訴人本人〔第一回〕、大谷鑑定)によると、被控訴人は本件交通事故により、右肩、頚、腰部の打撲を受けたことが認められる。
また、前示一の認定判断に証拠(甲一五の一ないし六、証人竹内孝仁、被控訴人本人〔第一回〕、弓削鑑定)を総合すると、被控訴人は、本件交通事故後に右肩関節周囲炎に罹患したものであり、本件交通事故以前に既に右疾患に罹患していたものではないといえる。
2 もっとも、証人大谷清は、本件交通事故以前に被控訴人が右疾患に罹患し、それに基づく症状があったかのように証言する。しかし、右証人は、被控訴人のレントゲン所見から推測して、右証言をしているのであるから、これをにわかに採用することができない。むしろ、証拠(証人竹内孝仁)によると、肩関節周囲炎を窺わせるレントゲン所見がみられても、必ずしも同疾患が発症し、症状が存在していたとはいえないことが認められる。そうであるから、本件交通事故以前には、被控訴人は右肩関節周囲炎に罹患していなかったものというべきである。
3 ところで、肩関節周囲炎は、外傷等が契機となって発症することもあるが、必ずしもそれに限られるものではなく、むしろ原因の明らかな場合は少ない(乙三〇)。
しかし、肩関節周囲炎が、外傷等により、外力が直接又は間接的に肩に加わることによって発症することも明らかである(乙二八、証人竹内孝仁)。
そうであるから、被控訴人の右肩関節周囲炎の発症機序について、本件交通事故によって引き起こされた外傷性のものであるとみるのが相当である。すなわち、被控訴人の右肩関節周囲炎は、外傷性肩関節周囲炎ともいうべきものである。
したがって、本件交通事故と右肩関節周囲炎との間には、相当因果関係があるというべきである。
三 後遺障害
1 証拠(甲一三)によると、被控訴人の右肩関節周囲炎に基づく右肩関節痛、右肩関節運動制限は、平成二年五月一八日に、症状固定したものといえる。
2 もっとも、証拠(乙二八)によれば、肩関節周囲炎は期間の長短はあっても最終的には後遺障害なく治癒するとされており、当裁判所も後示のとおり、一定の期間経過後は治癒すると判断するものである。
しかし、前示一、二の認定判断及び証拠(乙二三、乙四八、証人大谷清、大谷鑑定)に照らし、右平成二年五月一八日の時点では、未だ被控訴人の右肩関節周囲炎は治癒していない。被控訴人の右肩関節周囲炎に基づく右肩関節痛、右肩関節運動制限は、右時点で症状固定し、その後一定の期間経過後に、治癒するべきものとみるのが相当である。
そして、前示一、二の認定判断に証拠(乙一六の一、二、乙二八、乙三〇、乙三一、証人大谷清、証人竹内孝仁、大谷鑑定)及び本件に顕れた諸般の事情を総合すると、被控訴人の右肩関節周囲炎が、症状固定後治癒するまでの期間は、一〇年間であると認めるのが相当である。
3 なお、被控訴人の症状固定時の右障害の程度は、前示のとおり、自賠法施行令別表の後遺障害等級一二級六号の「一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」に該当するものというべきである。
四 損害
1 治療費関係損害
前示一1(三)(3)の症状固定日までの各医療機関における診療は、本件交通事故と相当因果関係にあるものといえる。したがって、次の各損害は、本件交通事故と相当因果関係にある損害である。
(一) 治療費(被控訴人出損分)
認容額一万二〇三〇円(請求額二万四〇六〇円)
なお、甲第一四号証と甲第一八号証の一ないし三は、いずれも時期が同じで重複している。
(二) 入院雑費
認容額一〇万五六〇〇円(請求額一一万四四〇〇円)
入院日数は前示のとおり八八日で、一日当たり一二〇〇円が相当であるから、次のとおりとなる。
1,200×88=105,600
(三) 付添看護費
認容額一一万円(請求額と同じ)
控訴人の症状に照らすと、黒岩病院に入院中の二二日間について、付添看護費を相当なものと認め、その金額は一日当たり五〇〇〇円が相当であるから、次のとおりとなる。
5,000×22=110,000
(四) 通院等費用
認容額四万二三三〇円(請求額と同じ)
(甲一九の一ないし六、甲二〇の一ないし二九)
2 休業損害
認容額一五五万四〇〇〇円(請求額一八七万二〇〇〇円)
控訴人は、パートタイムによる収入が年間約八五万円あるものの、主として家事に従事していた主婦であったと認められる(甲二一、被控訴人本人〔第一回〕)。
そうすると、被控訴人の休業損害は、賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均の賃金額を基礎として算出すべきであるが、平成元年の右数値は月額平均で被控訴人の主張する一八万二五〇〇円を下回ることがない。したがって、右一八万二五〇〇円を月額収入として休業損害を算定する。
(一) 前示のとおり、入院日数は八八日で、通院日数中実治療日数は一〇五日であり、その合計一九三日の期間は就業が全く不可能期間とみるべきであるから、次のとおりとなる。
182,500×12/365×193=1,158,000
(二) 平成元年七月一一日から同年九月二〇日まで(七二日間)は、就業が全く不可能な期間である(甲三)。そして、右期間の入院日数(二二日)と実治療日数(三七日)を除く日数は一三日となる。したがって、次のとおりである。
182,500×12/365×13=78,000
(三) 平成元年九月二一日から症状固定日である平成二年五月一八日まで(二四〇日間)から、入院日数(六六日)と通院日数中実治療日数(六八日)を控除した一〇六日の期間は、前示一ないし三の認定判断に照らし、労働能力の五〇パーセントが失われたと認める。したがって、次のとおりとなる。
182,500×12/365×106×0.5=318,000
(四) 以上合計一五五万四〇〇〇円となる。
3 後遺障害による逸失利益
認容額二七二万〇二〇六円(請求額三三二九万九二八九円)
(一) 前示のとおり、被控訴人の後遺障害は右肩関節周囲炎に基づく右肩関節痛、右肩関節運動制限であり、自賠法施行令別表の後遺障害等級一二級に該当するといえる。また、右後遺障害は、症状固定後一〇年間で治癒するものといえる。そうであるから、被控訴人は、症状固定後一〇年間、労働能力が一四パーセント失われたとみるべきである。
(二) 前示のとおり、被控訴人は家庭の主婦であり、その収入につき、賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均の賃金額を基礎とすべきであるが、平成二年の右数値は被控訴人主張の二四四万五六〇〇円を下回ることがない。したがって、次のとおりとなる。
2,445,600×0.14×7.9449=2,720,206
4 慰藉料
(一) 傷害慰藉料
認容額一七〇万円(請求額二四〇万円)
被控訴人の入通院の期間、傷害の程度等諸般の事情に照らし、右金額を相当と認める。
(二) 後遺症慰藉料
認容額二三〇万円(請求額一八〇〇万円)
前示三の後遺症の程度等諸般の事情に照らし、右金額を相当と認める。
5 被控訴人に生じた損害は以上のとおりであるが、被控訴人は前示のとおり、遅延損害金について、①後遺障害関係を除く損害についての賠償金は本件交通事故の日である平成元年七月一一日から、②後遺障害関係の損害についての賠償金は症状固定日の翌日である平成二年五月一九日からと、遅延損害金の起算日を分けているので、それぞれに分けると、①について三五二万三九六〇円、②について五〇二万〇二〇六円となる。
なお、以下、①後遺障害関係を除く損害についての賠償金及び②後遺障害関係の損害についての賠償金に関し、それぞれの充当関係等を区別して示す必要がある場合、右①を賠償金Aと、右②を賠償金Bと呼称する。
五 過失相殺
1 本件交通事故の発生及び態様は、前記第二の二1、2記載のとおりである。
もっとも、被控訴人は、この点について、両手で被害車両である自転車のハンドルを握り、左手で傘を持って走行していた際に、加害車両が追突した旨主張し、被控訴人作成の陳述書(甲二四)及び供述(原審第一回)には、右主張に副う部分がある。
しかし、被控訴人は、本件交通事故直後の司法巡査に対する供述調書(甲一五の四)において、本件交通事故の態様として、前示第二の二2の内容の供述をしている。そして、被控訴人の右供述は、控訴人の本件事故直後の司法警察員に対する供述調書(甲一五の三)における供述と概ね一致している。
また、本件事故に関する実況見分調書(甲一五の二)の加害車両の状況欄には、「左フロントヒラー上部に接触痕あり」との記載がある。
そうすると、被控訴人の主張に副う前示各証拠を採用することはできない。
2 当裁判所は、本件交通事故の発生及び態様に関する前示認定事実に基づき、各当事者の過失割合について次のとおり判断する。
(一) 控訴人には、加害車両の左側端の道路上を、被害車両である自転車に乗って走行していた被控訴人を追い抜くに際し、両車両の間隔を十分に保たないまま進行した点で過失がある。
しかし、被控訴人にも、右手に傘を差して自転車を走行しつつ、左折したため、ハンドル操作があまく、ややふくらんで進行することになった点で過失がある。
これらの結果、両車両が接触して、本件交通事故が発生したのである。
(二) そうすると、本件交通事故に関する各当事者の過失割合は、控訴人が九、被控訴人が一とするのが相当である。
六 損害の填補について
1 過失相殺後の損害額は、賠償金Aについて三一七万一五六四円、賠償金Bについて四五一万八一八五円となる。
2 控訴人から、被控訴人の請求分として、①一一五万七二五六円が支払われ(乙二二から九万一六六〇円を控除した金額)、また被控訴人の請求外の支払として、②一〇六万六五六〇円が支払われていることが認められる(甲四―三六万二八八〇円、甲五―一二万七五八〇円、甲八―二五万九四二〇円、甲一四―二二万五〇二〇円、乙二二のうち九万一六六〇円)。なお、①、②のいずれも後遺障害についてのものは含まれないから、賠償金Aに対する填補となる。
3 したがって、右2①については全額を、同②についてはその一割である一〇万六六五六円を、いずれも前示過失相殺後の賠償金Aから控除することになり、その結果、一九〇万七六五二円となる(賠償金Bは、四五一万八一八五円のまま変わらない)。
七 弁護士費用
六〇万円(請求金額は二八〇万円)
被控訴人が控訴人に対し本件交通事故と相当因果関係のある損害として賠償を求めうる弁護士費用は、本件認容額等に照らすと、六〇万円が相当である。
なお、右金額は賠償金Aに加算することになるので、賠償金Aは二五〇万七六五二円となる(賠償金Bは、四五一万八一八五円のまま変わらない)。
八 まとめ
以上によれば、被控訴人の請求は、金七〇二万五八三七円及び内金二五〇万七六五二円に対する平成元年七月一一日から、内金四五一万八一八五円に対する平成二年五月一九日から、いずれも支払済みまで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
第五 結論
よって、本件控訴は一部理由があるから、前示第四の八と異なる原判決を主文一項のとおり変更し、本件附帯控訴は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六七条二項、六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大石貢二 裁判官 杉江佳治 裁判官 重吉理美)